2014年9月22日月曜日

エミッターのイオン化効率への影響

混合物をGC/FIで測定したとき、
それぞれのピークの強度比がエミッターによって変化する。

クロロホルム(RT 1.74 min)とメチルグリシジルエーテル(RT 2.16 min)

0603-2(32)おろしたて
クロロホルムの方が強い
クロマト

(35→2)長期間使用
クロロホルムがほとんど出ない
クロマト

エミッター作製まとめ(FI用)

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文献
1 M. D. Migahed, et al., International Journal of Mass Spectrometry and Ion Physics, 7(1971)1-18.
                  電圧、温度、蒸気圧が結晶成長に与える影響(詳細)
2 H. D. Beckey, et al., International Journal of Mass Spectrometry and Ion Physics, 8(1972)169-179.
                  エミッター作製とFI測定の全般
3 J. H. Gross, 平岡賢三ら訳, マススペクトロメトリー, シュプリンガー・ジャパン, 2007

注意
エミッター作製の初期の研究はFIを念頭に置いており、FD用の検討は1970年代後半に多い。
ここでは、初期のFI用についてまとめる。FD用については別ファイルにする。

背景
針状結晶がなくても極めて細いワイヤーでFIは行えるが十分ではなく、
表面に針状結晶を成長させることで局所的に電界を強めることができる1)p1

ワイヤーの材質
初めのうちは白金が使われていた1)p2が、タングステンが丈夫で扱いやすく1)p15, 2)p169、よく使われる。

ワイヤーの太さ
2.5-5 um:細い、10 um:太い
ワイヤーが太いほど、成長は遅く、針状結晶は長くなる1)p7
太いワイヤーを使う場合、初めの電圧を高くする1)p15
10 umの太いワイヤーだと機械的に丈夫で、さらに表面積が大きいため、FDには適している1)p15
太いワイヤーだと、カソード側と土台側に同じくらいずつ結晶ができるが、細いワイヤーだと土台側により多くできる1)p9

針状結晶の長さ
針状結晶の表面の電界強度は針状結晶の長さに比例し、直径に反比例する1)p3
針状結晶の根元の部分は太く、密集しているため、ワイヤーの一部とみなすことができ、
結晶が長くなるにつれて実質的なワイヤーの太さが増していく1)p4
The field enhancement due to the increase of the needle length is compensated (or over-compensated) for by the virtual increase of the wire diameter, and hence according to eqn. by a decrease of the field strength.
F(t)=F0(h(t)/rn(t) )(r0/r(t))
10 umタングステンワイヤーでは針状結晶が3 umのときにFI感度が最大になる2)p172
とても長い(10-15 umの)針状結晶(5-10 umタングステンワイヤー上)がFDには必要である2)p172

炭素源
ベンゾニトリルは実験的にも理論的にも適している1)p2とされていたが、さらに良いものが見つかった。
これについては、FD用の別ファイルにまとめる。
インダン、インデン、インドール、ナフタレンだと短時間で、ベンゼンだと数秒間で活性化できる3)p393
純粋なベンゾニトリルやインデンを用いて、カスタム化した特性を持つエミッターが商業的に作られている3)p393

電圧
初めに高くすることで結晶成長の核を作り、途中から低くすることで針状結晶を大きくする1)p17
途中からはエミッション電流を一定にすべきであり、そのために電圧を徐々に下げていく1)p6
始めは14kVで、1時間のうちに10kVまで落とす2)p172

温度
高温で作ると、濃く、強い針状結晶ができる1)p14
高温で作ると、熱に強いエミッターになる1)p11
タングステンの酸化膜が結晶成長を阻害するため、真空中で1000℃に加熱して取り除く1)p10
800-900℃で12)p172)。導入過程については、FD用の別ファイルにまとめる。
初めの成長は温度が高いほど(600℃まで)速い。900℃以上の高温にすると成長速度が少し落ち、針状結晶の構造に不可逆的な変化が起こる。高温だと枝分かれが少なく、樹状でなくなる1)p7

蒸気圧
高い蒸気圧で作ったほうが、イオン化効率の高いエミッターができる。5×10-3より高くすると、実質的なワイヤー直径の増大が速くなりすぎるので良くない1)p9

総合的なこと
活性化効率は重合速度、架橋の度合い、針状結晶の物理的強度、形状、導電性に依存する1)p4
初めの5分は900℃、14-5kVで、その後、20℃で6時間ほど置き、最後に1分ほど900℃にする1)p17
5分以降は、エミッションが(8uAなど)一定になるように9kVくらいまで徐々に電圧を落とす1)p6,17


アクチベーター内でのイオン化効率の良し悪しと、質量分析計内でのイオン化効率の良し悪しは必ずしも一致しない2)p170。→エミッターの評価は質量分析計で行うべき

エミッター作製まとめ(FD)

もとのファイルはこちら

文献
1 M. D. Migahed, et al., International Journal of Mass Spectrometry and Ion Physics, 7(1971)1-18.
                  電圧、温度、蒸気圧が結晶成長に与える影響(詳細)
2 H. D. Beckey, et al., International Journal of Mass Spectrometry and Ion Physics, 8(1972)169-179.
                  エミッター作製とFI測定の全般
3 J. H. Gross, 平岡賢三ら訳, マススペクトロメトリー, シュプリンガー・ジャパン, 2007

4 H. D. BeckeyPrinciples of Field Ionization and Field Desorption Mass Spectrometry, Pergamon1977.
                  導入、第1、第2の三段階、後の条件検討の基礎になっている
5 W. D. Lehmann, et al., Analytical Chemistry, 53(1981)743-747
                  活性化中の抵抗、温度
6 JEOL エミッターアクチベータ取扱説明書
                  FD, FI用エミッター(10 umタングステン、ベンゾニトリル、結晶長15-30 um
7 M. Rabrenovic, et al., International Journal of Mass Spectrometry and Ion Physics, 37(1981)297-307.
                  インデン使用、条件はほぼBeckeyの本4)の通り

背景
1970年代前半の基礎研究を前提として、同後半以降にFDに適したエミッターの作り方が検討されている。
ここでは、FD用の丈夫で結晶の長いエミッターについてまとめる。
FIのイオン化効率が高くするには、細いワイヤー上に短い結晶を成長させれば良い1)p4, 2)p172
FDに適した長い結晶を再現性よく作るために、活性化前の導入過程にも力が入れられている5)p743

ワイヤー
10 umタングステン4)p66,5)p743,6)p2-1,7)p298

スポット溶接
溶接後のワイヤーの長さの違いにより、活性化前エミッターの抵抗にばらつきが出る5)p743
溶接が不完全だと、抵抗が大きくなり、そのようなものは活性化に使わない5)p743

針状結晶の長さ
35-40 umFDに適している7)p299
15-30 um6)p4-2
30-40 um4)p70,5)p743
最大で100 umにまでできるが、その場合、結晶の短い周辺部が高温になりすぎて切れやすい5)p745

図のcで支柱の近くが高温になりすぎる5)p746

炭素源
ベンゾニトリル4)p65,5)p743,6)p2-1
ベンゾニトリル、インダン、インデン、ナフタレン、インドールのどれでも出来は同じだが7)p306
インデンだと結晶の成長が早い7)p301
インデンを使う場合もベンゾニトリルと同じ手順で活性化する7)p299
金属、シリコンなどのエミッターは炭素のものより劣るが、短時間で作れる7)p298

温度
12004)p69
1200℃(上限1250℃、下限950℃)6)p2-1
1200℃、ただし、導入段階後の初期は中心部を高め(1250-1300℃)にして周辺部が低すぎないようにする5)p746
インデンの場合、1200℃で6時間かかるところ、1300℃では2時間で作れる7)p299
ベンゾニトリルは温度を変えてもあまり効果が無い7)p299

図のbのように、中心部がやや熱すぎる場合に、周辺部が適温になる5)p746

電圧
始めは高く、途中から低くすることで、根元は密で先端はまばらにする5)p745

蒸気圧
電圧を下げることによる結晶成長速度の低下を補うため、蒸気圧を上げていく5)p745
蒸気圧は各時点で安定して使える最大値にする5)p745

エミッション
始めに0.1uAほどだったのが、2時間で10uAまで急上昇するのが、結晶成長開始の指標になる5)p745
40uAになったら、電圧を下げ始めて、それ以降エミッションを一定に保つ5)p745

導入段階0kV1×10-2 1200℃から1400℃に上昇 炭化タングステン生成の発熱反応4)p69

1段階12kV 1200℃(36mA 3uA 4)p69

2段階5kV 蒸気増加 1200 4)p70

導入段階0kV 1×10-2 10min 1400℃から1800℃に上昇 ワイヤーが部分的に炭化5)p743
*望みの温度にしてから蒸気を入れる
抵抗が1.5倍ほどに増加する

始め10kV 1×10-2 1h 5uA 5)p745
*頻繁にエミッションをチェックしてこまめに電圧を下げる

終わり4kV 5×10-2 5)p745

1段階14kV 5×10-3 1200℃(35mA 2h 1uA 針状結晶の芽をつくる6)p3-1

2段階12kV 8×10-3 1h 5uA 針状結晶の芽を育成する6)p3-1

3段階10kV 1×10-2 60mAまで エミッション飽和 針状結晶を成長させる6)p3-1

導入段階0kV インデン 1200ワイヤーが炭化7)p299

1段階12-14kV 5×10-3インデン 1300 7)p299,301
*途中で電圧を変化させても効率は上がらない

2段階6-7kV 1×10-2インデン 1300 7)p299,301