2014年5月31日土曜日

CIテスト

CIを試すことにした経緯は5/27の記事

二重収束型のJMS-SX102AでCI測定をしてみた.
CI用イオン源チャンバーとフランジをセットしたが,
試薬ガスはつないでいない.

「よりよいCIスペクトルを得るために」(日本電子,1980年代)を参考にした.
試薬ガスをボンベから以外に,リザーバーから供給することが紹介されている.
リザーバーに入れる試薬としては,アセトンやメタノール,エチルアミンが挙げられている.

アセトンのPA(下記)はイソブタンとほぼ同じで,メタノールは少し小さい.
アセトンで測定すると[M+H]+だけが出たが,弱かった.
メタノールで測定すると[M+H]+のほかに数本のフラグメントピークが出た.
メタノール中に痕跡量のアセトンが含まれた状態では,
[M+H]+だけが出て,アセトンの場合より強かった.

手元にiso-プロピルアミンがあるので,
アセトンでもフラグメントが出る場合に使ってみようと思う.


リザーバー内は液面が見えず,枯渇や入れすぎに気づきにくいので,
リザーバーに取り付ける液体試料注入ビンをセットするために準備をしている.
混合試薬ガスを試す場合にも,ビン内で両液を混ぜればいいので簡単である.


PA(プロトン親和力,kJ/mol)
メタン552
イソブタン820
アンモニア854

アセトン812
メタノール754
エタノール776
プロパノール787

メチルアミン896
エチルアミン912
ジエチルアミン952
トリエチルアミン981
プロピルアミン918
イソプロピルアミン924

2014年5月27日火曜日

付加イオンによるフラグメント抑制

FDではEIに比べてソフトにイオン化できるが,
フラグメンテーションがまったくないわけではない.
生成する分子イオンはラジカルを有しているため,
安定なラジカルが生じるようなフラグメンテーションが特に起こりやすい.
典型的な例として,tert-ブチル基の脱離による[M-57]+の生成がある.

ラジカルが関与するフラグメンテーションの多くは,
プロトン付加分子([M+H]+),アルカリイオン付加分子([M+Na]+,[M+K]+など)からは起こらない.
低極性分子の場合,試料量を増やしたり,良くないエミッターを使ったりして
[M+H]+をたくさん生成させ,フラグメンテーションを抑えることができる.
ある程度極性があれば,上記のほかに,アルカリ金属塩(NaIなど)の添加も使える.


低極性化合物のイオン化法に,CI(化学イオン化)というのがあり,
これは,流通している多くの装置で利用できる.
FDには及ばないものの,試薬ガスを厳選すればある程度ソフトにできる.

CIではラジカルを有する分子イオンはほとんど生成せず,多くの場合,
プロトンか試薬ガス由来の反応イオンが分子に付加したものが生成する.

イオン化後のフラグメンテーションにラジカルが大きく関与する場合は
多少エネルギーが高くとも,CIでラジカルなしのイオンにする方が有利だと考える.

有用性を確かめるために,近々CIとFDの比較をしようと思っている.
試薬ガスを使い切るほど測定しない可能性が高いので,
ガスボンベではなく,リザーバーからガスを供給することにする.


CIは1970年代に熱心に研究されたが,最近,過去の知見を再発見した論文が出ている.
James L. Little and Adam S. Howard, Journal of The American Society for Mass Spectrometry24, 1913-1918 (2013)
試薬ガスとしてメチルアミンを用いればかなりソフトにイオン化できるが,
実用的でないほど感度が落ちてしまう.
大過剰のメタンと数%のメチルアミンの混合ガスを用いれば,感度が大幅に向上する.
この場合,メタン由来の反応イオンはほぼすべてメチルアミンのイオン化に使われるため,
サンプルのイオン化に寄与するのはメチルアミン由来の反応イオンとなる.



低極性化合物をFD/FIよりもさらにソフトにイオン化する手法として
IA(イオン付着)イオン化がある.
分子にリチウムイオンを付加させ,ラジカルを持たないイオン([M+Li]+)を生成する.

1970年代に,未活性化エミッターによる無機塩の測定から発展した.
下記書籍の78ページ(2.4.5.2章)
H. D. BeckeyPrinciples of Field Ionization and Field Desorption Mass Spectrometry, Pergamon1977.


このイオン源を装着した質量分析計は現在,販売されていない.
過去にはIA-LabというQ-MSがキャノンアネルバから出ていた.
JEOL環境セミナー講演集 (2008)

産総研でIA-TOF-MSを製作されているが,まだ製品化されていない.
産総研TODAY,Vol6-8,28ページ (2006)

電界電子放出(FE)エミッター

FI-MS,FD-MS用のエミッタでは,針状結晶が長くなるにつれて
見た目のワイヤー径が太くなり,発生させる電界強度が落ちてしまう.
カーボンナノチューブやカーボンファイバーならば
根元が太くないため,長く成長させても見た目のワイヤー径が変わらない.
イオン化効率が格段に向上すると思うので,ぜひとも試してみたい.


FI-MS,FD-MS用のエミッターと非常によく似た技術に
電界放出電子源(FE)がある.

X線源(電子源)としてのカーボンナノチューブの利用には賛否両論ある.


奥山 文雄:使える
ドイツ,Hans-Dieter BeckeyのもとでFI-MS,FD-MS用のエミッター開発をしていた.
その後,名古屋工業大学でX線源を開発した.
1990年代後半に,世界で初めて,電界電子によるX線像を得た.
FI-MS,FD-MS用エミッターの炭素結晶成長を応用して,
カーボンナノチューブ群を用いたX線源を作製した.
日本放射線技術学会雑誌,2002年3月,309-313ページ
X線源の作製に関する論文で用いている基板は,
材質,形状からして,FI-MS,FD-MS用のエミッターと同じである.
つまり,針状結晶の代わりにカーボンナノチューブを成長させたものを作っている
これが質量分析に使えるか気になるが,適用したという記述はない.
M. Tanemura et al., J. Appl. Phys. 90, 1529 (2001).

現在(2014年)の研究室名はナノ機能材料研究室,教授は種村 眞幸で,
カーボンナノチューブを用いたSPMカンチレバーを開発している.
http://tane-lab.web.nitech.ac.jp/index.html


鈴木 良一:よくない
カーボンナノチューブをX線源として用いると
強力な電界でカーボンナノチューブが基板から剥がれてしまう.
カーボンナノチューブは,その径が基板から先端まで同一であり,
根元にまで高電界が及ぶことが破損の原因であるため,
根元に向かうにつれて太くなる形を採用した.
針葉樹型をしており,先端にはナノレベルの針状突起が出ている.
産総研計測フロンティア部門公開シンポジウム報告集
https://unit.aist.go.jp/riif/ja/results/publication.html
第9回シンポジウム,117ページ,極微欠陥評価研究グループ




電界イオン顕微鏡(1951年)
エミッターに正電圧をかけて,試料を電界イオン化(FI)する.
これにより,世界で初めて原子の観察に成功した.

電界放射顕微鏡(1937年)
エミッターに負電圧をかけて,電子を放出させる.

2014年5月26日月曜日

活性化ガス

カーボンエミッタが開発された当初は
benzonitrileが最善の活性化ガスだと報告されていた.

その後,FD用エミッター作製にかかる時間を短縮するために
活性化ガスの再検討が行われた.
M. Rabrenovic and T. AST, Alternative Organic Substances for Generation of CarbonEmitters for Field Desorption Mass Spectrometry. Int. J. Mass Spectrom. Ion Phys. 1981, 37, 297-307.

その中でIndeneとNaphthaleneが推奨されており,
CarbotecではIndeneが使用されていることから,
Indeneを試すことにした.

これまでは,benzonitrileを用いて
2日以上かけて作製していたため,
条件検討が一向に進まなかった.

Indeneを使えばbenzonitorileのときに比べて
所要時間が10分の1ほどに短縮できるため,
条件検討の効率が飛躍的に向上すると期待している.

エミッターの評価

完成したエミッターはリザーバーから流したアセトンの
分子イオンの強度を測定して比較している.

作製条件は針状結晶が長くなるように設定しており,
完成後の目視でも,長いことを確認している.

このように,FIとFDの両面で評価しているため,
FIもしくはFDに特化したエミッターは生まれない.

FI用ならば,針状結晶が短くなるように設定して
アセトンの測定で強度が出るものを選抜すればいい.

FD用は再現性よくイオン化効率を実測するのが難しいと思う.
できたとしても,評価のためにエミッターが消耗することになる.

FIに比べて,FDの測定が圧倒的に多いので,
FD用エミッターを作り,評価する方法を考えている.

Carbotec Allround: http://www.carbotec-analytik.de/carbotec/carbotec-allround.html
Carbotec FI用: http://www.carbotec-analytik.de/carbotec/carbotec-fi.html
Carbotec FD用: http://www.carbotec-analytik.de/carbotec/carbotec-fd.html

アクチベーターののぞき窓

アクチベーターのチャンバーにはのぞき窓があり,
直径23.6 mm,厚さ2.5 mmのガラスをはめている.

エミッタを作る度にガラスが汚れるため
数回に一度,紙やすりで研磨していた.

アクチベーター内のエミッタの温度確認は
パイロメーターを使って目視で行うため,
ガラスの汚れ具合によって不正確になると考えた.

代用品として,アクリル板に取り替えてみると,
これまでのところ問題なく使えている.

東急ハンズで厚さ2 mmのアクリル板を買い,
加工コーナーで円カットしてもらった.

使用後は茶色の膜ができるが,
消しゴムでこすることできれいに除去できた.
3um(#4000相当)のラッピングフィルムシートで研磨すると,
細かい傷が付いて,透明度が落ちてしまった.

活性化中に生じるたわみ

高電圧をかけた状態で1400℃程度の高温になると
やわらかくなったワイヤーが対向電極に引っ張られてたわむ.

活性化していないワイヤーの場合,
45 mAなら数秒で,
42 mAなら3分でたわむ.

32 mAから5 mA/hrで42 mAまで上げ,
42 mAで3分保持すると,5個中3個がたわんでいた.


針状結晶ができやすくなるするための初期の高温処理は,
電圧をかけなくても効果があるのか調べたい.
効果があるなら,電圧をかける前に高温処理をして回避できる.

初期の高温処理で温度を控えめにしてたわまないようにしても,
電流を上げていく過程で高温になり,たわむことがある.
電流の上昇は,針状結晶の形成による電気抵抗の減少を補うためのものなので
針状結晶の成長が遅れていると,過剰補正されて温度が上がってしまう.

CarbotecやLindenのホームページに載っているエミッターは
どれもわずかにたわんでいる.
Carbotec: http://www.carbotec-analytik.de/carbotec/carbotec-allround.html
Linden: http://www.linden-cms.de/index.php?id=5